なぜ病院では難しい言葉を使うのか?「隠語」としての医療用語

救急外来(ER)や病棟では、あえて横文字や略語を使う場面が多々あります。 それは単にかっこつけているわけでも、効率化のためだけでもありません。一番の理由は、患者さんやご家族に、余計な動揺を与えないためという、プロとしての配慮です。

パニックを防ぐためのフィルター

例えば、医師が他のスタッフにこう言ったとします。

「この人、癌が全身に転移してるね」

これをカーテン一枚挟んだ隣のベッドの患者さんや、待合室のご家族が聞いたらどうなるでしょうか? だからこそ、現場ではあえて専門用語や略語を使います。

MK:胃癌  LK:肺癌  CK:大腸癌

他にも部位によって略語はありますが、これなら専門知識がない人が聞いても、すぐには深刻な状況を察知されにくくなります。

不快感や先入観を与えない配慮

精神疾患や、特定のデリケートな状態を伝えるときも同様です。

  • メンタル(Mental): 精神疾患の背景がある場合。
  • ADL(エーディーエル): 日常生活動作。例えば「ADLが低い」と言うことで、「身の回りのことが自分でできない状態」であることを、角を立てずに共有できます。

最悪の事態を伝えるとき

最も慎重に扱われるのが、お亡くなりになったことを指す言葉です。 病院内では、ステルベン(Sterben)という言葉がよく使われます。 「亡くなりました」という日本語は非常に重く、周囲に与える影響が大きいため、あえて記号的な言葉に置き換えて、現場の冷静さを保ちます。

救命士が意識すべき言葉の使い分け

病院で働く救命士にとって大切なのは、「誰に向かって話しているか」で言語を切り替えることです。

  • スタッフ間: 迅速かつ正確に、配慮を含んだ「略語・専門用語」を使う。
  • 患者・家族間: 略語は一切使わず、中学生でもわかるような「平易な日本語」で話す。

この「翻訳作業」ができるようになると、看護師さんや医師からも「この救命士、わかってるな」と一目置かれるようになります。

病院での略語は、情報を効率的に伝える「武器」であると同時に、患者さんの心を傷つけないための「盾」でもあります。

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